after 911 photo & text by Hiroshi Tokui

がんばれニューヨーク! WTC SEP
 

10月31日(水)

今日はハロウィンだからWTCの犠牲者たちの霊も多く漂っていることだろう…なんとなくそういう雰囲気である。朝起きたらいきなり停電だったので、すわ発電施設がテロ?なんて思ったが、ウチのボロいアパートのメーターのトラブルだった…ああ良かった。
メールボックスを開けると、ポスタルサービスから「怪しいメールの見分け方」のメッセージが入っていたので、ここに紹介する。これは炭疽菌テロが市民生活まで影響を及ぼしている証拠でもある。

どういうメールを怪しいと思えばいいか?

身に覚えのない差出人からのメール
自分宛でない前住居人宛てのメール
手書きで差出人住所の記入されていないメール
いびつで塊だらけの内容物のメール
極度にシール(密封)されているメール
Personal または Confidential と裏書きのされたようなメール
過度の郵便切手が貼られた、または郵送料の支払いが認められるメール

疑わしいメールを前にしてあなたは何をすればいいのか?

怪しいと思われるメールを自分の手で取り扱わないこと
振るな、ぶつけるな、ニオイを嗅ぐな
石鹸と水で徹底的に手を洗うこと
911にすぐ知らせる

ついにブロンクスに住む一般市民が肺炭疽で死亡した…感染経路がわかっていないだけに、我々も用心して暮らさなければならない。本当にイヤな世の中になったもんだ。



Courtesy - US New York 2001

10月30日(火)

発生から7週間が経過したニューヨークは、精神的なものを除いたほとんどのモノゴトがテロ前の状態に戻りつつある。その復興のパワーとスピードは驚嘆に値する。
爆弾と食料を同時に投下する変な攻撃はいまだ続き、民間人も多く犠牲になっているようだ(ただ正確なことは誰にもわからない)。タリバンの人たちは思ったとおり民間人を楯に教会や学校や病院に隠れ続けている。最前線で戦うアル・カイーダのオピューム中毒戦士たちは狂っているだけにとても手強い…特に宗教に傾倒したジャンキーをなめてはいけない…オウムの例を見てもわかるように、彼等はしぶいといしどこまでも戦い続けるのだろう。アメリカの特に東海岸では炭疽菌の被害が拡大し、ついにブロンクスに住む一般人がインヘイル(吸引)して肺炭疽を発症し重体に陥っている。ただ、炭疽菌にやられる確率は自動車事故に遭うより遙かに低いので、今のところ現実的な脅威ではないはずだが、市民の日常生活をを怯えさせるには十分役に立っている。再びマラー長官やアシュクロフト司法長官が苦虫をかみつぶしたような顔で、RED ALERT を発し、今週(ハロウィン前後)テロ再発の危険性を警告している。が、それはあまりにも漠然とし過ぎているため、たとえばジュリアーニ市長なども「どこをどういうふうに重点的に警備すればよいのかわからないので、もう少し具体的な情報がほしい」とぼやいている通り、何が危険なのかが今いちハッキリしない。
誰にとっても予想外のことは、今でもグラウンド・ゼロが燃え続けていること。ウチのある10丁目あたりでも、窓を開けるとしっかりと馴染みのあるあのニオイが秋風と共に吹き込んでくる。
久しぶりにチェンバースで降りてフローズン・ゾーンまで足を運んでみたのだが、「新しい観光地」としてテンポラリーに機能しているのを感じた。呼び物となっているのは実におぞましい焼けただれたオブジェなのだが、多くの観光客が訪れ外貨を落としてくれるのは当地の経済復興を考えると悪いことではない。バリケードの張り巡らされた立入禁止区域は日に日に縮小され、今は一般人もグラウンド・ゼロのすぐ目と鼻の先まで近づいて写真を撮るのが可能になっている。フェンスには観光客用に寄せ書きスペースが設けられ、思い思いのメッセージが書き込まれたり、花が飾られたりしている…観光客参加型観光地。そのフェンスに沿ってペイトリオッツグッズを売る土産物屋が並び、その通りをピンストライプのスーツを着込んだブローカーたちが足早に通り過ぎるという独特な雰囲気だった。
画像(上)は元 7 WTCがあった場所をスルーしてファイナンシャルセンターの目玉だったウインターガーデンを望んだ図。相変わらず焼けただれたビルにWTCの外壁が突き刺さったままになっていてテロの凄惨さを感じることができる。観光客も(リスクを冒してせっかくニューヨークに来たのだから)これが見たいのだ。ただ、アズベストを含んでいるであろう周辺の空気の悪さには驚く。この辺りにマスクなしで長い時間いると本当に気分が悪くなる。現場でリカバリーエフォートに従事しているレスキューワーカーたちも呼吸器系の不調を訴えているそうだ。これはケミカルリアクションによるもので、ついついマスクを外して作業してしまう人が多いも原因なのだろうが、あれはもう7週間前の出来事なのだ…It's really difficult to believe。下の画像は知人が送ってくれたウインターガーデンの中からグラウンド・ゼロ方向を見たもの…一昨年のこの季節、このビルに入居する野村総研の日本語学校で教師をやるために何度も訪れた場所だけに、その変貌ぶりにショックを受けた。

10月25日(木)

発生から6週間以上が経過したが、グラウンド・ゼロは今も燃え続けている…嫌なニオイだ…。中国の新聞(ウェブ版)は「オサマ・ビン・ラディン死亡」なんて記事を出していたが、限りなく信憑性がないのでみなさまほっとするのはやめましょう。昨日も今日も明日も炭疽菌の話題(と攻撃)は続き、いたちごっこ的になっていくのは確実。そのうち市民は「テロと隣り合わせの毎日」に慣れ、「え炭疽菌?それがどうかした?」なんてことになるのだろう。ここへ来て本土の「安全性」が確認されつつあるので、数々のチャリティコンサートやイベントが開かれ、時にミュージシャンが、アクターが、スポーツ選手が、コメディアンが寄付を募っている。政治家がゲストプレゼンテーターとして登場することも多く、アジテーションしたりして行き過ぎたペイトリオティズム(愛国主義)がやけに目につくアメリカ。「ああなるほど、こういうのがエスカレートして日系人を強制収容したり、挙げ句の果てにニュークを投下したりしたのね」と忌まわしい歴史を思い出したりもするのだった。
アメリカは「過剰反応」すると危険な国であることは誰もが承知している事実。今現在もWTCテロ犠牲者の「命の重さ」と日々空爆で犠牲になっているテロリスト以外の一般アフガン市民の「命の重さ」を計りにかけ、WTCの「命」の方が遙かに重いという解釈をしている。1ドル120円みたいに、1アメリカ人(以後1a)=120アフガニスタン人といった感じで、その時々で変動相場制が採用されている。たとえばずっと安値(軽値)を維持しているのがイラクで1a=500イラク人とか…冗談抜きで、本当にそういう感じなのだ。「おまえら何を言っている、ファイヤーファイターには子供も家族もいたんだぞ!」と声高に叫ぶ人々には、アフガン市民にも子供や家族がいることを理解する能力はない。明らかに目盛りの読み方が間違っているし、人の命に軽いも重いもないのだが、アメリカ製の「計り」によると、何があってもそれが正しいのだ…反対意見は今は許されない風潮なのだ…ある意味とても恐ろしい国である。
CNN では「アメリカは鎖国をするべきか?」とか「ニュークを使うべきか?」なんてことが真剣に討論されていた。もうすぐ議会に学生ビザの発給を半年間凍結したり、日本が在日韓国人などに強要しているような「指紋押捺」システムを盛り込んだ法案が提出されるようだし、そういう話を聞くと根本的な部分でアメリカの行く末に疑問を感じずにはいられない外国人の自分なのだった。

10月22日(月)

現在アメリカ国内の炭疽菌テロは41人の感染者が確認されていて、うち9人が発症、1人が死亡という状況になっている。今日も「汚染」メールが投函されたとされるニュージャージー州の「悪の巣窟」トレントンの郵便局員に続いて、今度はワシントンの局員がインヘイル(灰に吸い込んで)感染かというニュースが取り立たされている。ビジネスもほぼ普通の状態に戻り、観光客も徐々に戻ってきた感のあるニューヨークだが、市民の生活態度の根底には以前には見ることのなかった「疑念/緊張」が含まれるようになった…これは大きな違いだ。他のコラムでも繰り返し書いてきたように、それまでは確かに「平和ボケ」しつつあった社会だったので、この緊張感はある意味喜ばしいことだが、これではあまりにも「度」が過ぎる。イスラエルのペレス外相が言うようにテロと共存するには市民レベルにおける「断固たる覚悟」が必要なんだなと思える今日この頃…。
今回のような、アメリカの既存のシステムを悪用した「知能派」テロは、犯人を捕まえるのが難しい。アメリカの弱点は彼等に徹底的に研究され利用されつくしている。「怒らせたらこわいんだぞ」と軍事力にものを言わせて空爆するのも予定通りの反動であって、それに対しても事前に手が打たれている。タリバンがつぶされるのも時間の問題だが、それも予定通り。ラマダンと厳寒期前のこの微妙な時期にわざわざテロを行ったのも計算通り…じゃあ冬の間は何が行われるのか? というとそれも既に手が打ってあって、せっせと別の菌をばらまいて当局を混乱させたり…なんてことになるのかもしれない。ちなみに次に危ないのは1980年に世界保健機関(WHO)が撲滅宣言を出した伝染病の「天然痘」だと言われている。
外国人としてグラウンド・ゼロ地域に住み、ことの一部始終を観察していると、彼等は本当にチェスか何かのゲームをしているように見える。ただ同じ種類の生物が向かい合った椅子に対等なレベルで座って闘っているわけではない…たとえばそれは癌細胞とのせめぎ合いにも似てマクロレベルの追いかけっこだ。放射線療法や、たまにキモセラピーが効いたかと思うと、癌細胞は既に思わぬ部位に転移して取り返しのつかないことになっていたりする…古典的な死に至る病でありながら現在も決定的な治療法は確立されていない…アメリカ本土がテロに喘いでいる様はこれにそっくりだ。そしてアフガン空爆は全世界が煙草会社をわかりやすく虐めている図式に近い…が根本的に発癌性物質は煙草以外も含めて、世界の至る所に溢れてしまっているから解決にはほど遠い…うーん堂々巡り。

10月14日(日)

ロックフェラーセンターのNBCが狙われた。CDCの…少し前に流行った映画「アウトブレイク」のダスティン・ホフマンを彷彿させる装いの宇宙人みたいな人たちがウロウロしていて気味が悪い。このエリアには紀伊国屋書店があるので日本人(含む観光客)にも基本的に馴染み深い場所。誰がやっているのか知らないが、本当にもう「卑劣」極まりない炭疽菌テロ…やり方が男らしくなくてキライだ。でも、新聞などには「全米が震撼」なんて大袈裟に書いてあるが、実際はそんなことはない。もう9/11以上にインパクトのあるテロはさすがのテロリストも起こせないから地味なものである。一部の人はパニックかもしれないが、市民は普通に暮らしている。もうこうなったらいちいちテロなんか気にしてられない。世の中の人(含む日本人)は「この戦い」について、好き勝手なことをおっしゃっているが、自分の住んでいる街が攻撃されていないからそんなことが言えるのだ。普通の「まいにち」がある街にそういうことをされると、「まいにち」が「へんなまいにち」になるから「ふつうのひと」にとっては大迷惑な話だ。お願いだからもうやめてくれない? って、本当に心の底から言いたい。自分の好きな街が破壊されるのを指をくわえて見ているしかない状況は何よりも辛い。
今ニューヨー辺りで流行っている噂は「ハロウィン大テロ説」。元々10月末のハロウィンは全米で犯罪率が上がる日なのだが、今年は更にこんなことになったので、仮装をしたアラブ系の誰かが「ハイジャックして再度背の高いどこかのビルに突っ込む」、「五大湖近くの大きい街のモールに毒を撒く、五大湖水系に毒を混ぜる」などが盛んに話されている。また「失踪したレバノン人の彼からメールが来て、9/11とハロウィンだけは出歩かないように、飛行機に乗らないようにと警告された」という内容のメールが誰からともなく回ってきている。困ったもんだ…これじゃ Trick or Treat?じゃなくて Trick or Threat?である。ロックフェラーセンターの星条旗も何となくしおれて見えた日曜日。



10月11日(木)

発生31日目。あれからまる1カ月が経過した。さまざまなことが変わった…人も街も徐々に平静を取り戻し、新しい「あたりまえ」に馴染んできている。でも、よく晴れた火曜日の朝8時48分に、アメリカン航空11便が超低空飛行でノースタワーに突っ込んできたあの瞬間の思いは、ニューヨークの人々の脳裏から永遠に消えることはない。
オレンジ色の火の玉と共に「自由社会」への宣戦布告がなされ、自由の象徴は破壊されつくし、同時に恐怖が植えつけられ自由は制限された。今アメリカが闘っている相手は、山岳地帯の乾いた土地に展開するイスラム原理主義者や過激派そのものではなく、自由を制限した恐怖に対してである。自国の利権や利益のためではない。政治的なものでもない。今アメリカが(大きな代償を払うことを覚悟の上)必死になって取り戻そうとしているのは、制限されないただの自由だ。失ってみて初めて事の重要さに気づいた…あるいは麻痺していたことに気付かされたのは確かだ。
実際ホワイトハウスやキャンプ・デイビッドで、何が話されているのは知らない。爆弾と食料を同時に投下する矛盾した戦いに本当に意味があるのかも知らない。知っているのは、日々の暮らしは実際「不自由」で、それでも自由であるがごとく「普通」に暮らさなければならないということだ。
なぜこの街がテロリストに狙われたか、なぜWTCだったのか、それらの答えはこの街の特殊性に集約される。
ニューヨークには世界中からありとあらゆる異なる種類の民族、人種、宗教、言語、常識、主義、主張、学問、金融、流通、経済、政治、貧富、善悪、寒暖、白黒などのエレメントが持ち込まれ、「自由社会」をベースに昇華され発展してきた歴史がある。そんな世界の縮図の中で、目に見える結晶として育ったもののひとつが28年前に建築されたWTCだった。それはまるで、化学の実験か何かで水晶を成長させるのにも似て、複雑な化学式と同じようなプロセスを経て絶妙なバランスで天高くそびえ立った。それは、ニューヨークの、アメリカの、西側世界の、近代自由社会のランドスケープを構成する上で、とても重要な象徴だった。
それが破壊された時に多くの人が気付いたのは皮肉なことに「世界のアンバランスさ」についてだと思う。なぜテロリストたちはイスラム教の信者ばかりで、この国をここまで憎み、自由を呪うのか? なぜ倒壊したWTCの姿をみて「お祝い」をする人たちがいるのか? 数多くの疑問に誰もが強制的に対峙させられた瞬間だった。
今世界で行われているのは、あまりにもアンバランスになってしまった足下の土を元に戻すために必要不可欠なアジャストメントではないだろうか? 誰もが曖昧にし続けてきた「価値」を今、ハッキリさせなければならないのではないだろうか? 麻痺した感覚を覚醒させて、答えを見つけ出さなければならないのではないだろうか?
地球のほとんどの地域には、昼と夜がある。光があれば影もある。開けない夜はないし、止まない雨もない。社会には善と悪がある。貧富がある。自由と制限された自由がある。世の中にはキリスト教とイスラム教、数多くの異なる宗教がある。そして、形あるものはいつか壊れる…WTCとて例外ではなかった。
でも、我々は確かに目撃したはずだ、瓦礫の上に何が残されたのかを。確かに感じたはずだ、グラウンド・ゼロの灰の中から発信された数々のメッセージを。
それらはほとんどの場合形のあるものではなく、枠組みを越えた「団結」だったり「犠牲」だったり「愛」だったり「思いやり」だったり「信念」だったり「勇気」だったり「許容」だったり「精神」だったり…我々人類は(今後起こることを含め)そろそろ真理を学ぶ段階にきたと感じている…そう、まだまだ先は長いけど、がんばれ人類!そしてがんばれニューヨーク!

※このページは明日からは不定期更新となりますが、今後ともよろしくお願いいたします。

10月10日(水)

発生30日目。アンスラクス(炭疽病)関連のニュースがトップ扱いの今日のニューヨーク。フロリダは感覚的に「ここからはさほど遠くない場所」なだけに、成り行きが注目される。過去の戦争で生物兵器は、扱いの難しさから主に心理戦に用いられるパターンが多かったようだが、なるほどテロリストたちが好んで使む「卑怯な兵器」であることがこの事件の経緯からもわかる。目に見えない、音もしない、ものによっては臭いもしないから普段の普通の生活の中にいつの間にか入り込んでいる…それはひっそりと音もなく忍び寄る死の影のようで恐ろしい。もしかすると爆弾が爆発するよりも恐ろしい。早く彼等を止めねば世界中に疫病が広がって、今はアメリカを批判しているアラブ世界を含めて、取り返しのつかないことになる。イスラム教というのは、そもそも無差別殺人を許容するような宗教ではないはずだ。Good muslims can only stop mad muslims. 
グランドセントラルやペンステーションにも州兵が配置された。街にはピリピリした緊張感が頼っている。なぜニューヨークは狙われるのだろう。なぜアメリカはテロリストの標的になっているのだろう。たとえばどうしてカナダやオーストラリアじゃないんだろう。どうして? その理由については、誰もが考えなければならない。それが唯一我々にできることだ。
ニューヨークタイムズ日曜版にあったデータを少し紹介すると、昨年比のエアラインの乗車率がマイナス30%、7月末からの失業保険の受給率がプラス12%、チェーン店の売り上げがマイナス0.2%、6月からの住宅ローンの申し込み率がマイナス4%、冷凍デザートケーキの売り上げがプラス20%(面白い数字だ)、コンピュータの売り上げは劇的に落ち、テレビを見る平均時間が9時間と9/11以前並み(アメリカ人は普段からテレビ好きだ)に戻り、モールに訪れる人がマイナス5%、ホテルの占有率が40%程度と軒並み冷え込んでいる。しかしながらこの数字は9/11の週末に比べると劇的に改善されているので、国民の生活形態は徐々に普通に戻りつつある状態であることがわかる。
がんばれニューヨーク! がんばれアメリカ! がんばれ世界! がんばれ地球!

10月9日(火)

発生29日目。朝起きると気温が5℃しかなく Chilly なニューヨーク。グラウンド・ゼロの死者は487人、行方不明者は4,815人と発表された。Debrisは今も燃え続け、風向きによっては、今では馴染みのある特有の焦げ臭さが漂ってくる。Chilly なのは天候だけではない…2日連続のアフガン空爆を受けてかどうか定かではないが、ついにバイオテロの恐怖が現実のものになった。だいたい25年間も発症していない菌が、フロリダのタブロド誌を発行している出版社のキーボードの上から簡単に検出されるだろうか? 常識で考えてそんなことはあり得ない、これは明らかに「場違いな感染」である。フロリダにはアルカイダ関係者が潜みやすいモスレムコミュニティがあることを考えても、これは黒いターバンを巻いた者たちの仕業に違いない。WTC 突っ込んだ犯人の1人アッタが近くで軽飛行機を借りて操縦したこともあると言うから、これはますます怪しい。
市民は平静を装っているが、こっそり抗生物質「シプロ」やガスマスクを買い求めている。空爆開始以来ニューヨークにはピーンと張り詰めた空気が漂っているのは確かで、何とも緊張を強いられる日々だ。こんなニューヨークに誰がした! 10丁目を歩いていたら、ゴミ置き場に捨てられた透明のゴミ袋に数日前のニューヨークタイムズが突っ込んであって、その1面の写真(カブールの旧アメリカ大使館が民衆に襲われている図)を見て、状況的にゾッとした。それは、目に見えない黒い影が炭疽菌の胞子と共に確実に忍び込んできていることを連想させた。

10月7/8日(日・月)

発生27・28日目。ついに目に見える戦闘開始。早かれ遅かれこの日が来ることはわかっていたが、やはり複雑な思いだ。アフガニスタンにおける夜間の集中攻撃は我々の目に引き続きよくは見えない。いったい何が行われているのかイメージするのが難しい。暗視スコープにわずかに映った光の瞬きを「攻撃」として認識し起こっていることの全体像を把握しろと言われてもどだい無理な話だ。明るくなってからタリバンの駐パ大使が「もうー全然被害はないよ、ビンラディンもオマル師も生きてるよ、アメリカはバカだね」と憎々しく声明を出したりしているけれど、彼等の言っていることを国際社会は100%信用しちゃいない。こういう相手だけにどんなにミサイルを撃ち込んでも「空しさ」を感じるのは確かで、成果があるにしてもないにしても早くやめにして、違う方向の戦いに力を入れてほしいと切に願う。今回のアクションは国民や国際社会の関心を引き付けておくためにも必要不可欠なデモンストレーションであることは言うまでもないが、それと同時に正式に「Welcome to 報復テロ」状態になったわけで、我々市民もこれまでにない強大なプレッシャーを感じている。「戦争開始」に合わせて、ニューヨークの厳戒態勢がより一段と厳しくなった。それにしてもF15/16戦闘機の飛び回り方はすごい。今もひっきりなしにジェット音が聞こえる。いくらどんなにジュリアーニ市長が「よりいっそう警備体制を強化するから、市民のみんなもこれにめげずに今まで通りの生活を続けてね…」と言いながら笑顔で安全をアピールするためにタイムズ・スクエアを練り歩いても、我々市民の心は癒されない。エミー賞の授賞式がどたんばでキャンセルされたり、再びショウビジネス関連にも影響が出た。次はロサンジェルスが危ないと言われている。我々にはいったい何ができるだろうか? 緊張して暮らす以外何をすればいいのだろうか?
戦闘機さえ飛び回っていなければ、10月の空はご覧のように美しい。

10月6日(土)

発生26日目。朝から激しい雨が降っている。この雨でグラウンド・ゼロはぬかるみになってリカバリー作業はますます難航している。まだまだ先は長い。米の調査機関「ビュー・リサーチ・センター」は、うつ病を訴える人が7割から4割、不眠症が3割から1.5割に減ったと発表した。アメリカ人の受けたショックが徐々に和らいできていることの現れであるが、それはあくまで大人の話である。先日、ブッシュ大統領がニューヨークを訪れた際に、爆心地にほど近い場所に位置しているチャイナタウンの PS130(公立小学校)を訪問したが、テロ後に子供たちが描いた絵には燃えさかるWTCに大きな黒い穴が開いて、そこに飛行機が突っ込んできているような生々しいものが多く、見ているだけで実に痛ましかった。ジグザグひびの入ったビルの袂にはラダーに乗ったファイヤーファイターが描き込まれ、その上から瓦礫が降り注いでいるようなものもある。この学校の窓からはWTCがよく見えていたので、子供たちは事件の一部始終を目撃した。想像してほしい、もし自分が10才くらいの時にあんなものを間近で見せられて「何が起こっているのか」理解することが可能であろうか? あの日の朝、あの瞬間、子供たちのこころにも、銀色の大きな飛行機が突っ込み大きな穴を開けたのだ。感受性の高い(大人とは違った種類の)彼等の感じ方は、我々と違ってもっとピュアでダイレクトだから、リバウンドが大きく治癒に時間がかかる場合がほとんだという。たとえ事件を目撃していなくても、社会全体を漠然とした不安が包んでいる状況だから、それは子供たちにも伝染し常に漠然とした不安と共に暮らしている子が多い。知人のアメリカ人建築家は「とにかく子供たちには、実際にできる範囲で復興活動に参加させたり、繰り返し再建のイメージを持たせてあげることが重要だ」と言う。積み木でも、LEGOでも、機関車トーマスでも何でもいいから、ものごとを「フィックス(修理)」したり「立て直す」擬似体験をさせることが、実際多くの学校や家庭で取り組まれているPTSDを緩和する方法なのだそうだ。とにかく今はこういった種類の「副作用」にも、適切に対処していかなければならないニューヨークである。

10月5日(金)

発生25日目。毎朝窓を開ける度にガッカリしてしまうのだが、今朝も、ハイ…しっかりあのニオイが漂っていた。グラウンド・ゼロのリカバリーエフォートは今日も続けられている。急に夏のような気候に戻って、半袖で歩く人たちが目立った。ひとときの開放感が、あれ以来私から「シリアスオープンカフェ」と呼ばれていた9丁目角のカフェにもまどろみをもたらしたようだ。何せそれまでは誰もがしかめっ面をして新聞を読んでいるのが常だったから通り過ぎるだけで憂鬱になった。街に少しだけ笑顔が戻ってきた気がする。でも、そうかなと思うと、またフロリダで炭疽病の患者が発症しただとか、再度シリアスな報復テロの可能性が警告されているだの、イスラエルがヘブロンに侵攻しただの、気になるニュースが耳に飛び込んでくる。先日はアフガン情勢に大きな動きはなかったが、注目すべき数字が発表された。それは今後2年間のニューヨーク市の経済損失額で、実に12兆7千億円になる見込み…これにはWTCの復元費用や地下鉄の再工事費用も含まれていると言うからずいぶん気が早い。でもこの街の人だったらあっと言う間に本当に元通りにしてしまうことだろう。それにしても庶民には天文学的な数字だ。
画像はロックフェラーセンターの名物カフェ&冬場はスケートリンクをぐるりと取り囲むおびただしい量のアメリカ国旗なのだが、何もここまで掲揚しなくても…と思うほどの量だ。こういうのを見ていると、逆にアメリカ人の不安を感じる…。なかなか始まらない報復攻撃。でも、報復攻撃が始まると米国本土を狙った同時報復テロも始まる。バイオレンスは避けて欲しいが、それでは解決しないこともわかっている。今は辛抱の時なのだろうが、多くのアメリカ人がダイレンマに陥りつつあるのも確かだ。


Justice always bring us an enormous contradiction.

10月4日(木)

発生24日目。信じがたいのだが…まだまだ煙い…あまり嗅ぎたくないあのニオイが窓から入ってきた。先日はブッシュ大統領がテロ後2度目の訪ニューヨーク。チャイナタウンのパブリックスクールを訪問して子供たちを励ました。クラスの先生の化粧が妙に濃いのが気になった。その後、ファイヤーデパートメントを訪れてピザを差し入れ…うーん何やってんだかなぁ…。ジュリアーニ市長が三選断念を表明した水曜日、民主党の候補者たちのディベートが行われているのをテレビで観た。アル・シャープトンの後押しを受けているブルックリン区長のフェラー氏はジュリアーニ氏の任期延長要請を断ったことで一躍有名になったのだが…うーん何というか…芯の通った人だけど華がないなぁ…一方共和党候補者のブルームバーグ氏の録音された声が我が家(のオーナー)に電話してきて、「ディスイズマイク・ブルームバーグ!ディザスターのあといろいろ大変だけどオレはやるよ!」とよく意味のわからない留守番電話を残していた。
さて、世の中にはいろいろな人がいる、戦争賛成の人もいれば反対の人もいる。さらにそれはさまざまなコンディションに分かれる。自分の場合「戦争反対」だが、それはどういう戦争反対かというと、全世界を巻き込んだ第3次世界大戦的な戦争反対ということだ。ニュークを使ったり、細菌兵器を使って広範囲に一般市民を巻き込み、地球を破壊するような方向の闘いだけはしないでくれと。だから今、アメリカが着々と進めているテロリストと彼等をかくまう国に対する追い込み方法には基本的に賛成だ。バイオレンスはバイオレンスを生むだけだという意見はごもっとも。でも、今回の事件をまったく何の血も流さずに平和的に解決するのも不可能だ。WTCからは既に十分すぎるほどの血が流された。この相手を何とかするには、相手と同じ土俵にあがらなければならない。つまり、汚いことをする相手には、それ以上の汚いことをしなければ勝てないわけで、きれいごとや通り一遍な理屈は一切通じない。アメリカは軍事行動だけ行っていると端的に解釈している人が多いが、実は全然違う。これがまったく新しい戦争だと言われる所以はそこにある。ディプロマを使った政治的、経済的な駆け引き、自己防衛のための法制改革、世論操作、軍事力を使った脅威、実際の軍事力、超大国の総合的なパワーを使った戦いぶりを見ていると、この段階ですでに溜め息が出る。根っから狩猟民族の集まりなんだなと思う。攻めて攻めて攻めまくって相手が尻尾を出すのを待っている。まるでキツネ狩りでもしているようだ。そういう荒くれ者たちをまとめあげる親玉大統領のリーダーシップって単にスゴイ。同じ事が日本で起こっていたら、いまだに議論してああだこうだとやって、法案のひとつも通ってないんだろうな。


Stand still. Exterminate Scumus.

10月3日(水)

発生23日目。ラムズフェルド国防長官が中東に飛んだ。この交渉の進展次第では本当にアメリカ軍は Ready になると言うことだ。つまりどこかから何かが発射されてドッカーンとなったり、誰かがどうにかしてパタパタ機関銃を撃ったりして、それを見たテロリストたちがまたどうしようもない自爆なんとかなどを企てて、どこかで悲しい話が発生する。先日はタリバンの駐パキスタン大使がつたないイングリッシュで記者会見して、相変わらずピントのズレの激しさを披露していたが、同じ日の夜にはオマル師が国民にアグレッシブな警告をしたりで矛盾の塊と化している。彼等絡みのニュースを耳にする度脳が疲弊するのは自分だけではあるまい。
ブレイキングニュースとしてテネシー州で走行中のグレイハウンドのバスドライバーが乗客の1人に喉を Slit されて、そのまま激突転覆し10人近くが死亡したらしい。これがテロと関わりがあるのかは今のところハッキリしないが、セキュリティチェックというものが事実上存在しない長距離バス業界に衝撃を走らせている。これを受けてグレイハウンドはすべての路線の運行を中止している。
悲しいかなニューヨークらしい現実として問題となっているのが、火事場泥棒的な行いの数々。そういうことをする SCUM(スカム=人間のカス、ごくつぶし) はもちろん軽蔑の対象なのだが、次から次へ信じられないような話が出てくる。120万トンに及ぶ瓦礫は、本来ならばすべてスタテンアイランドのフレッシュキルズに運ばれFBIのインベスティゲーションを受ける決まりなのだが、そのうちかなりの量の鉄骨がマフィアによって「抜かれて」いる。大してお金になるわけでもないのにロングアイランドなどのジャンク屋に勝手に運ばれ保管されているらしい。また、そういう流れで行方不明者を抱える家族の元に直接電話をして、グラウンド・ゼロの土を高値で売りつけようとする者がいて、苦情が相次いでいる。それを受けてジュリアーニ市長は木製のツボなどに灰を入れたものを遺族に無料で提供すると表明した。遺体の損傷の激しさ(発見/照合の難しさ)につけこんだ非人間的な行いには心が痛む。

10月2日(火)

発生22日目。気温は10度を下回りグランドゼロのリカバリー作業にも支障が出ている。いきなりこんなに寒くなられたらレスキューワーカーたちの動きも鈍くなるってもんだ。これまでに151,155トンの瓦礫が撤去されたが、それはまだほんの一部でしかない。
街は一見 before911 に戻った感があるが、それはあくまで表面的な話で、人々のメンタリティはあの日を境に変化したままだ。事件以後のメンタリティの変化をポジティブな方向で洞察すると、ニューヨークだというのに人々がちょっとだけ優しくなった。「オレは地球の中心だー!」なんてやってきたほとんどの人たちの心に、少しだけ他人のことを考えるスペースが生まれ、今までの尖ったナイフのような行動形式に変化が出たのは確か。たとえば悪名高きキャブドライバーなんかも気持ち悪いほど穏やかである。鳴らされるクラクションの数も劇的に減った。3秒しか待てなかったのに今は5秒は待てる…これは凄い変化だ。今のニューヨーカーはさしずめ紙は斬れるけど肉は斬れないペーパーナイフみたいなもので、元々「諦め」の備わった大人の街だったから、あんなものを見せつけられたらこれ以上何があっても動じないと言う雰囲気が漂うのも頷けるのだが、それは逆にどうしていいかわからないから反応が鈍くなるという戸惑い(麻痺)の現れでもありちょっと複雑だ。それから多くの人が家族と共に過ごす時間が増えたのは喜ばしいこと。
街のグロッサリーなどに置かれている日本語のフリーペーパーを手に取ると、事件当日からの投稿をダラダラと掲載していた…それを読み進んでいるうちに段々と腹が立ってきた…どうして日本人はこんなにバカなんだ? もうこれ以外何もない。そのペーパーの質の悪さもひとつの原因だが、それにしても書かれている内容がひどい。ニューヨークに滞在してあの日を体験したってのに「WTCが燃えていた、外に出て見ていたらくずれ落ちた。スゲー。煙が凄かった。学校が休みになったので嬉しい。近くまで見に行ったらみながマスクをしていた。ぼくはアップタウンに住んでいるので何もかわんないよ。おしまい」これでは夏休みの小学生の絵日記以下である…あまりにも認識が低い…でもこれが現実なのだ。
昨日は特別大きなニュースはなかった。相変わらずテレビでは炭疽病の予防接種の特集などを多くやっている。42丁目のグランドセントラル駅の巨大な窓には星条旗が掲げられている。

10月1日(月)

発生21日目。あっと言う間に月が変わった。アメリカ軍はまだ具体的に誰の目にも見えるような攻撃は開始していないが、水面下ではかなりの動きがあるのは誰の目にも明らかである。そんな折り、アシュクロフト司法長官やらが再びテロリズムのレッドアラートを発したので誰もがビクビクな10月の始まりになってしまった。そもそも先週が危ないと言われ続けてきた。でも、何とか乗り切った。我々にはテロリストとの間で実際どのようなせめぎ合いが行われているのかわからないようになっているが、ニューヨークの交通規制の目まぐるしい変化の仕方を見ても、何らかの具体的な情報があり、それに基づいた措置が取られているように感じる。だからより恐怖を感じるのだ。
現在一番危ないと言われているのがANTHRAX(炭疽病・脾脱疽)で、アメリカ人なんて現実的だからANTIBODY(抗体)に対する具体的な取り組みが行われている。話されていることも、誰から先に(少ない)抗体を注射するかの優先順位だったりする。ガスマスクも売れ続けている…実にシリアスだ。11月からラマダン(断食)に入るイスラム世界だから、人道的には攻撃ができない=それをすると宗教戦争に発展する=ので、何らかの目に見えるアクションは間違いなく今日から31日以内に行われると考えていいだろう。そうなると報復テロの危険性も増すわけで、我々市民もよりいっそうの緊張を強いられる…美しい秋だと言うのに悲しい現実だ。でも、この戦争は決して宗教戦争ではなく、あくまでもテロリスト相手なのだから、彼等の宗教に配慮する必要なんてないと思いたくなる。テロリストはたまたまイスラム教で、たまたま11月がラマダンなだけで、彼等が世界に対して行っている犯罪行為は遙かに宗教を超越してしまっている。
朝10時からはジュリアーニ市長が国連総会50年の歴史の中で、初めていち市長として演説を行った。異例のことだ。アナン事務総長からは世界のメイヤーと紹介され、パワフルに時にエモーショナルにその思いを語った。今日から3日間参加した140カ国以上の国々がテロ撲滅について集中的に討議を行う。何らかの朗報を期待したい。


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