after 911 photo & text by Hiroshi Tokui

がんばれニューヨーク!  WTC OCT
 

No one likes wearing your inhumane veil.

9月30日(日)

発生20日目。先日は多くのお葬式が行われた。グランドゼロはまだ燃えている。NBCのサタデーナイトライブにジュリアーニ市長と FDNY/NYPD/PANY/EMC の面々が出演し「お笑い解禁」を宣言。事件以来よく見かけるポール・サイモンと、アリシア・キーズが歌った。進行役は無難な選択リーズ・ウエザースプーンだった。
これはもちろん今日の画像ではない。9/11のお昼に撮影したもので、倒壊したばかりのWTCの噴煙が勢いよく上がっているのが見える。献血の呼びかけに応えて、14丁目のベス・イスラエル病院の前にできた長い長い列に並んだが、「1980年から96年の間に半年以上イギリスに住んだ者の血液は採取できない(狂牛病の問題)」という条項に見事に引っ掛かり、自分の無力さを噛み締めながら足取り重く1st アベニューに戻ると、たくさんの生気のない埃まみれの人々がゾロゾロとアップタウンに向けて行進していた。その時の光景をよく覚えている…空は雲ひとつなくカラッと晴れ上がり、蒸し暑くもなくそれがなければ間違いなく素晴らしい火曜日だった。いつもならそこにはヒスパニック系の子供たちの無邪気な姿や、下世話な人々の笑顔や、昼ご飯を食べる病院スタッフの姿や、スタイヴァサントに住む老人たちが杖を突いてノロノロ歩む姿や、独特の喧噪や渋滞のイライラがあるはずだったが、どれもが既に消滅しテロリストによって強制的に与えられた「恐怖」という名のベールに覆われていた。
「ニ・ュ・ー・ヨ・ー・ク・が・よ・く・見・え・な・い」
残酷な9月の太陽は見事なまでのコントラストを描き出し、誰もが瞬間的に自由を奪われることへの危機感を覚えた…誰の目にもこれまでのニューヨークでは見ることのできなかった「恐怖」の2文字が見て取れる。それはほとんどの人が過去に体験したことのない特殊なものだったと思う。自分たちは生まれながらにして、資本主義自由競争/言論社会に育ちイスラム社会の人々に較べれば大した制約もなく、それをあたりまえとしてノビノビ好き勝手なことをして暮らしてきた。手を伸ばせばいつでも何でも揃っていて、自らの意思で人生(の方法)を選択し、努力によってそれらを手に入れることができた。隣人を愛し尊重し、自らの責任で成功したり失敗したりする社会を愛していたと思う。でも、それらはあくまでも限定されない「フリーダム」という培養液に満たされた条件の中で成立していたわけで、我々があの日の朝に失ったものはとてつもなく重要なものだったのだ。あれから20日目、ニューヨークはいまだベールに覆われたままだ。

9月29日(土)

発生19日目。人間は忘れっぽい。特に日本人は忘れっぽい。地震は? オウムは? 毒入りカレーは? ルーシーさんは? 小学生無差別殺傷は? 中学教諭の拉致監禁殺人は? 自分の国で起こった事件でさえそうなんだから、遙か遠いニューヨークで起こったこと=世界を激変させるきっかけとなったことなど、あっと言う間に記憶の彼方へ消え去ってしまうのは仕方のないこと。しかしながら、実際に世界で何が起こっているのかを正しく把握できない日本人が多いことには危機感を覚える。そのひとつの原因として、日本のメディアの相変わらず無能ぶりと質の低さがあげられるのだが、たとえばNHKは全般的に後手後手でひとつひとつ確認しながらおっかなびっくりニュースを伝えているので、リアルじゃないしテレビで新聞を読んでいるのと大して変わりがない=よって気分が伝わらない。フジに代表される民放は逆に未確認の情報を流したり、情勢認識の低いただの芸能人に無責任な発言をさせ、それをたれ流したり、事実を大げさに伝え過ぎる傾向がある。バックグラウンドに不穏な音楽を流したりしてムードを盛り上げるのも日本の民放のひとつの傾向だ。生物兵器テロの危険があったら、その恐怖だけをクローズアップして視聴率を稼ごうとする…日本が具体的に狙われているわけじゃないのに、ガスマスクを買う人などが現れるほど扇動する。基本的にバイオレンスに対する配慮が低いから、いつまでも強烈な映像を繰り返し流したりする。雑誌などもこぞってショッキングな画像を掲載して売り上げを伸ばそうとする…それを見た子供たちがまたあらぬ方向に事件を解釈する。誰もそれをフォローしない。潜在的にPTSDを患って心が病み、将来に悲観的なまま育ち、常識では考えられないような事件を起こす繰り返し。新聞は手元にないので批判は避けるが、ウェブ版を見ている限りどの新聞も平板で独自性がない…アメリカの新聞をそのまま翻訳しているようなものだ。何にしても情報の出所は一緒だから「意見」が「顔」が見えない。政府の対応を見てもそうだが、有事に話し合いばかりしている…それと同じでいつでも結論は先送りなのが日本のメディアの体質でもある。WTCの倒壊を「まるで映画を観ているようだった…」と言う人が多い…仮にそれが映画の1シーケンスだったにしても、その後世界がどう変わったのか、日本は世界でどのような立場におかれ、どのような対応をしているのかぐらいはちゃんと知っておいた方がいい…まだまだこの先大変だから。日本人に罪はないが、日本メディアの罪は今回も重大だ。


ユニオンSq.の違法慰霊碑は既に片付けられた

9月28日(金)

発生18日目。妻が病院から帰ってきて「ヨーレンヨーレンヨーレン♪」とローハイドのメロディを口ずさんでいるので何事かと思ったら、溶血性連鎖球菌、略して溶連菌に冒されているとの診断結果だったそうだ。溶連菌というのは別に珍しい菌でもなんでもなくそこいら中に存在しているので、もちろんテロとは何の関係もない代物だが、ケースによっては恐ろしく抵抗力の強いものや劇的に進行する「人喰い」バクテリアなんて呼ばれるものもあるので注意が必要だ。とりあえず日本では処方されないペニシリン(抗生物質の一種)をもらって安静にしてなさいということになった。問題は空気感染をする菌なので、人には会うなと…ちょっと待て、じゃあオレはどーなんの?って既に昨日から喉や体の節々が痛いじゃないかー…too late。
さて、ハローニューヨーク…少しは元気になりましたか? 答えはイエス。でも、会社勤めの一般の人などは実に気の毒だ。職場で毎日繰り返されるその手の噂はエスカレートし、やれガスマスクは売り切れだ、今度は地下鉄が危ない、実はバスが狙われている、タイムズスクエアが危ない、ロックフェラーセンターが危ない、クロトンの貯水池が既にやられた、などの信憑性のない情報が真剣に話されるそうで、精神的に疲れるのも頷ける。日本の友人からは「戦争反対署名求む」メールが回って来たのだが、あまりにも安易で中身のないものだったので無視。こういうのを読んでしまうと日本人の現状認識の甘さに危機感を覚える。なんで戦争反対なのか誰もが納得するように頭の中を整理してからメールを出してほしいものだ。ニューヨークで何が起こったのか、既にアメリカが何をしているのかをちゃんと把握してから具体的に反対して欲しいと切に思う。ブッシュ大統領はヨルダン国王と会談している。CNNの在イスラマバードのレポーター、クリスティアーニさんは、衛星中継中に回線の調子が悪く自分の声が出ないと勘違いし、思いっ切り「ガッダムイット!」とおっしゃって、それが見事にオンエアされたりしている金曜日の朝。

9月27日(木)

発生17日目。今朝も悲しみをいっぱい含んだ煙がグランドゼロから漂ってきている…ダウンタウンに住む我々は今ではそのニオイに慣れてしまっているが、いったい何が燃えているのかをよくよく考えれば実に恐ろしいことだ。まるでWTCが「忘れっぽい人間たちよ、どうか何が起こったのかを忘れないで!」と一生懸命頑張ってメッセージを送り続けているようにも感じる。普通なら水をかければ火は消える…でも爆心地は今も燃え続けている…雨はいつかやみ、夜はいつかは明け、陽はまた昇ると言うが、非人間的な行いによって起こった災いの炎は簡単に消えることはない。
今週は気温がグッと下がり、長袖が必要になった。妻が体調を崩し寝込んでいる…原因不明の手の腫れと痛みを訴えている…時期が時期だけにとても心配だ。ローカルニュースとしては市長選の予備選結果が出て、共和党がマイク・ブルームバーグ、民主党がフェラーとグリーン両氏の決選投票状態となっている。が、ここへ来てジュリアーニ現市長が続投の意思表明をするなどの動きも出てきた。これを実現させるためには三選を禁止した州の法律を無効にする法律を成立させるか、住民投票によって決議するかなどの方法が考えられるが、何にしても波乱は必至。11月の本選挙の行方が注目される。ハッキリ言えるのは、誰が新しい市長がなってもこの危機を乗り切るのは容易ではないと言うこと。まだこの先何が起こるか分からないし、そういう意味でも危機管理能力の高い現市長の任期を延ばして、事が落ち着くまで様子を見るのが得策だと思うのだが、外国人の我々は指をくわえて成り行きを見守るしかないのが現状だ。それから爆心地の瓦礫の山を一般人が撮影することを禁止する市の制令も出された。これで彼の地の混乱も少しは和らぐことだろう。具体的な爆破予告や危険物・生物兵器などによるテロ予告が相次いでいるので、今では運転手以外の誰かが同乗していない乗用車はマンハッタンに入ることを許されない措置がとられた。これは夜間62丁目以南にも適用されたので、どこもかしこも検問のために物凄い交通渋滞となっているが、逆にマンハッタン内はいつもより車が少ない。
このページの一番下でも紹介したチコの追悼壁画に関する記事がポスト紙に載っていた。教会のドアにはガスマスクの寄付を求めるチラシが貼られている。テレビからはジェシー・ジャクソンがタリバンと交渉するためにアフガンに向かったことを批判するニュースが流れている。そんな木曜日のニューヨーク。


我が家のカレンダーは今日も9月11日のまま

9月26日(水)

発生16日目。信じられないことだが、今でも窓からきな臭いニオイが入ってくる…せっかく(テンポラリーに)そういうことを忘れて、別のモノゴトの集中していても、それを嗅いだだけで簡単に現実世界に引き戻されてしまう。ニュースでは 事件前に CNN に移ったばかりのポーラ・ザーンがよく通る明るい声で暗いニュースを読んでいる。ビンラーディンのような(10日間の便秘の後に出たウンチのような)者を受け入れるだけあって、さすが "オマル" と言う名のタリバン最高指導者が米国民に向けて出したメッセージを聞いて、再びはらわたの煮えくり返る思いをしている人が多いだろう水曜日の朝、気温が下がり肌寒い。
今回のトラジディ(tragedy=悲劇)で何が一番変わったかと言えば、それは間違いなく「価値」であると思われる。深い深い悲しみと失意のどん底で感じたいくつもの小さな希望の兆し…今後の世界にとって重要なキーワードに違いない数々の「愛」「友情」。それは時に過去敵対関係にあったり、現在も断交しているような国家などからもたらされることもあっただろう…たとえば元KGBのスパイという肩書きのロシアのプーチン大統領などが政治的に用いている「人道的な協力」という(今まで考えられなかったような)言葉が示すとおり、これまでとは違った方法とレベルで全世界的な Unity の可能性が、おそらく地球の歴史上初めて具体的に示されようとしている。超大国アメリカだけが唯一持ちうる軍事的政治的経済的影響力を全て駆使して、一見テロリズム撲滅だけに向けて邁進しているように見えるが、その余波でこれまで滞っていたあらゆる懸案事項が飛躍的に半ば強引に解決されたり、忘れ去られたり、プライオリティが下がることによって、予想し得なかった連携なども生まれることだろう。今回のテロが世界が誰にとってもより住みやすい場所に進化するために必要な(目覚まし時計のような)悲劇だったとするならば、それはあまりにも大きな犠牲であったし、今後まだまだ不安定な状態が続いていくだろうし、事件も頻発するだろうし、迷いも生まれるだろうが、ここまでの流れを見ているとテロリストたちは自分で自分の首をしめている状態になりつつある。彼等は宗教的なモチベーションに基づいた偏ったアプローチしかしていないため、「人間愛」や「許容」の重要性を見落としている…もう怒りや憎しみを前面に押し出しても何も解決しない時代だというのに。

9月25日(火)

発生15日目。小泉首相がニューヨークを訪れている(いた)ようだが、CNNのニュースなどでインタビューは受けたものの、メディアに登場する機会は全般的に少なかった模様だ。そもそもCNNニュースのティッカーに「KOYIZUMI」と書かれていたし、アナウンサーからは「ジュニチョーコジュミ」と発音されていらっしゃった。アメリカ人も国際社会における日本の政治力のなさや、再三繰り返されてきた非常時の対応の悪さは認識済みなので、始めから多くは期待していない。後方支援なんて言っても、最終的には「金出せ」なるのは言うまでもない。完全に蚊帳の外である。田中外相なんて国内で干されている状態みたいだし、今回の流れを見ていても先が思いやられるマイ祖国ニッポン。今テロにあったらひとたまりもないんだろうなぁ(どうせテロするなら外務省あたりを狙ってほしいものが…)誰もそれどころじゃないから助けてくれないだろうし…危険だ。
さて本日もボツリヌス菌やら天然痘やらペスト菌やら炭疽菌やらは撒かれていないようで…と言うのも、どの菌も吸い込んでから具体的に発症するまで少なくとも4〜6日くらいかかるみたいだし、そんなこといちいち気にして生きていられないが、それらについて辞書を引いて調べてしまう自分がイヤだ。画像は14丁目とアベニューAの交差点にある地元有名ペインターチコが描いた追悼壁画に貼られていた2005年の NEWワールドトレードセンター想像図。見ての通り、ビルは一段と高くなり中指に当たる部分が天高く突き立てられ、指先に当たる部分にはアメリカ国旗が翻っている…あはは、見出しには Fxxk you Bin Laden とあった。14丁目一帯はドミニカンの一大コミュニティで、いつもなら昼夜構わずメレンゲが流れていて騒がしいのだが、やはりアレ以来大人しくなった感がある。平和で平凡で呑気だった Normal Days を破壊された彼等の怒りも相当のものであることが伺えるのだった。


バッジも売れ続けているニューヨーク

9月24日(月)

発生14日目。時代を反映してファッションはこの先ペイトリオティズム、またはヒッピー系へと流れて行くのは当然のことだが、それにしてもアメリカ国旗をあしらったデザインのなにがしかを着ている人の多いこと。自分はスノッブでカッコつけでファッションビクティムな嫌なヤツと認識しているような人でも、せめてシャツくらいはユニティを表現したいのだろう。普段、戦争とかそういうものに100%関心のない人でさえそうなんだから、今回の事件のインパクトは相当なものだった。また、まるでジャニス・ジョプリンのような格好をした女の子、ジェファーソン・エアプレーンのような集団、ボブ・マーリー的佇まいの者たちも多く見かけるようになった。この傾向はあっと言う間に世界に広がっていくことだろう。今回のことで既存の国旗シリーズの売り上げが伸びた、POLO SPORT、TOMMY HILFIGER、OLD NAVY、NIKEなどは、その収益の一部をを義援金にあててもいいのではないだろうか…と勝手なことを言ってみる。遅くなったが、今日も目覚めてちゃんと息をしていた。アルカイーダの死んだ魚のような目をした人たちはNYの上空から生物・細菌兵器をまき散らすことに今のところ成功していない…良かった、まだタイプできる。
日曜日はいろいろあった。ヤンキースタジアムではWTC倒壊の犠牲者の遺族、友人など約8,000人を集めてモリアルサービスが行われた。オプラ・ウィンフリーがMCを勤め、ジュリアーニ市長、パタキ知事、ヒラリー上院議員、シューマー上院議員、クリントン元大統領、エド・コッチ元市長らと共に犠牲者の冥福を祈った。各宗教の代表者もスピーチした。そしてプラシド・ドミンゴがベッド・ミドラーがマーク・アンソニーが歌った。対岸ニュージャージーではレイ・チャールズが歌った。現在、ニューヨークではジュリアーニ市長の続投を望む声が日に日に高まっている。彼が市長として勤めたこの2期8年の間、極端な政策によってマイナス要素も多々噴出したが、ニューヨークは間違いなく発展した。それはやはりジュリアーニがNY出身で、いかにこの街を愛しているかが市民のハートを捕らえたからに他ならない。それに今回のアタック後の危機管理能力やリーダーシップを見ていると(法律上3選はなしだから、25日に行われる予定の予備選で選ばれた候補者の誰かが次を勤めなければならないが…)ジュリアーニより秀でた人はハッキリいないのが現状だ。うーん、どうなることやら。

9月23日(日)

発生13日目。今日も息していた…ああ良かった。本日は午後3時からヤンキースタジアムでWTC遺族のための大規模なメモリアルサービスが予定されているニューヨーク。再びエモーショナルな日曜日になることだろう…窓からは…信じられないのだが…いまだに焦げ臭い空気が吹き込んできている。現在ユニオンスクエアは「反戦運動」の中心的役割をしている。ジョージ・ワシントンの騎馬像にはいつの間にかラブ&ピースマークが描き込まれ、星条旗やら反戦スローガン入りの旗を無理矢理持たされている。広場には反戦運動家たちが集まり気勢をあげている。どこからやって来たのかウッドストック時代ばりのヒッピー集団や、殺気だった学生たち(もっとも危険な集団だ)、新興宗教の勧誘、芸術家、観光客、報道陣がくんずほずれつわやわやな状態だ。反戦を唱える人たちのプラカードには「Resist the Racial war」とある。それを見た愛国主義者の人たちと言い争いになっている光景も見受けられる。これはもっともだ。だって今回の戦争って一概に人種差別的な戦いではないもの…イスラム原理主義過激派の人すべてがアラブ人というわけではないし、WTCで起こったことを度外視して平和的解決だけを闇雲に訴えるのは現実的ではない。それこそ blind eye だ。闘いを好むと好まざるに関わらず、今回のテロの首謀者を公的に裁こうとすれば、法廷に立たせるまでの段階で何らかの「戦い」が必要なのは誰の目にも明らかである。あっさりと平和的に解決できるのならそれに越したことはないけど、いったい誰が相手なのかをよく考えて Racial という言葉を使うべきだ。国内で起こっているエスニックヘイトクライムに対する抗議なら賛同するけれど、枠を広げすぎている感は否めない。こんな時だからこそどうか冷静になって欲しい。


ファファよそんなに好きなのか?ブッシュ…

9/11以降に書かれたものだろう

9月22日(土)

発生12日目。毎朝目覚めて自分が息をしていることを確認するとほっとするようになってしまった。と言うのも巷ではやれ22日が生物・細菌・化学兵器などを使った無差別テロの危険性が高いとか、水が危ないとか、今度はボストンが標的だとかばかりが話されているからで、アメリカ人の友人などはもう心配しすぎてほとんどナーバスブレイクダウン寸前である。自分はと言うと、先にも書いたように生きていることに感謝するくらいだから、もうテロに対しては諦めにも似た開き直りの境地にあると言える。演歌じゃないけど「だってしょうがないじゃない」状態…現実的に上空から細菌みたいなものをまかれたら防ぎようがないし、水道水に毒物を混入されてそれを知らず知らずのウチに飲んじゃったらひとたまりもないもの。街ではガスマスクや防護服が飛ぶように売れているようだが、盛り場での爆弾テロとかを含め、いちいち余計な心配をして神経をすり減らすくらいだったら、オレは最後まで楽しく生きてみせる!なんて言いつつも、角のデリでミネラルウォーターを買い置きしたりしてる…やれやれ。
でもそうやって恐怖に怯えて一般市民の日常生活、つまり「自由」を脅かすことがアッチ側の人たちの狙いの一つでもあるので、銃やらミサイルやらを手に抵抗することは(反対だし)できないけれど、ふふふオレはそういうものには絶対屈しないし負けないよビンラーディン! 誰もが口を揃えるように、たとえビルや肉体は壊せても myスピリッツは永遠に壊せないよ。妻が釣り銭としてたまたま受け取った1ドル札の裏に誰かが「Freedom defined is freedom denied 」と書き残していた…なるほど自由の限定はそれの否定と同意義ね…今が本当に勝負所だから、ビクビクしながら暮らさないで、みな(特に精神的に)団結して乗り切ろうではないか。
こういう不安な日々の息抜きは何と言っても猫兄弟との戯れに尽きる。今は無理して息の抜ける場所を探さないと、なかなか恐怖という名のプレッシャーから逃れることのできないニューヨーク。リビングでシリアスな顔してブッシュ大統領の演説内容を読んでいる途中に、キッチンにコーヒーを取りに行って戻ったら、ファファがタイムズの上にしっかり乗っかってゴロゴロ喉を鳴らしながら瞳をキラキラさせていた…まるで「そんなもんばっか読んでないで…リラックスリラックス」とでも言われているようだ。


スタテンアイランドフェリーから見た現在の星島

WTCの残骸を間近で見て言葉を失う…

9月21日(金)

発生11日目。昨日夜9時から行われたブッシュ大統領の演説をご覧になった方も大勢いらっしゃることと思う。好き嫌いは別にして歴史に残る演説だったことは確か…その力強さと決意には誰もが息をのんだことだろう…大統領が何か発言する度いちいち議会が立ち上がり拍手喝采を繰り返す様は見ていて滑稽でさへあったが、ただでさへお疲れ気味のご老体たちも「わかって」それをやっているんだから凄いことだ。アメリカの議員たちはどこかの国の老人たちと違って実にパワフル。途中、ジュリアーニ市長とパタキ知事が労われ長い喝采に包まれたときには、思わずテレビの前で妻と一緒に拍手してしまった。確かにこの2人はただごとでない10日間を過ごしているから…。
世の中にはいろんな主義・主張の人がいるし、アメリカを毛嫌いしている人も少なくないし、倫理的に戦争は愚かだとか、いろんなことを言う人がいる。遠く離れた国や地域でWTCが倒壊する様や、ペンタゴンが煙を上げる様や、救難作業の模様をテレビで観たり新聞で読んだりしても、どこか非現実的でピンと来ないのは致し方のないことかもしれない。でも、実際に激突する航空機のジェット音を聞き、どす黒い煙を上げるWTCが倒壊する課程を見て、埃まみれの人々が生気なくゾロゾロと北に向かってひたすら歩いている様を見て、サイレンが鳴りやまぬ眠れぬ夜を過ごし、献血に並ぶ人の長い列や追悼のメッセージや花やキャンドルに涙を流し、フリーダムを一夜にして奪われる様を五感で感じ、恐怖を知り、悪夢を見て何度も飛び起き、アスベストを含んだメタルの溶ける臭いと粉塵と6000人以上の犠牲者が瓦礫の山の中で焼かれる空気を吸い込みながら暮らし、今でも上空を通過する飛行機をビクビクしながら眺めつつそれでもしっかり学校に通う子供たちの頑張りを見て、実際にウォールストリートあたりから見える地上20階の高さに突き刺さったWTCの外壁残骸や、10日以上経過しても勢いよく不気味に白煙を上げ続ける Debris を見れば、ブッシュ大統領の言っていることは、実にまっとうな当たりまえのことだとしか思えない。大統領を始めセネターたちが厳戒態勢の中、わざわざグランドゼロを視察したのにはちゃんと理由があるのだ。世の中に悲惨なことは星の数ほどあるけれど、今のWTC界隈は間違いなく地獄絵図…彼等はそれを実際に見ている…一度でもそれを見れば決意は揺るがない。
ニューヨークは朝から天気が悪くどんよりとしている。猫兄弟はいつものように窓辺から外の様子を眺めている。10人のうち7人が鬱状態で、3人に1人が悪夢にうなされて眠れないアメリカで今日も我々は生きている。

9月20日(木)

発生10日目。今日からしばらくの間天気が悪そうだ。ジュリアーニ市長は今週末で「レスキュー」オペーレーションを「リカバリー」オペレーションに切り替えると表明した。これはつまり生存者がいる望みがほとんどなくなったということなのだ。リカバリーの段階になれば、瓦礫の山はもっと大がかりに大雑把な方法でワサワサと取り除かれる。そこにはもうレスキュー犬も必要ないし、手を使って慎重に瓦礫を掘ることもなくなるし、それをバケツリレーする光景も見られなくなる。画像はリードストリートあたりから見たWTC7の瓦礫の山だが、しばらく同じ場所に立っているだけでブーツの底が溶け始めるというレスキューワーカーの証言通りいまだ高熱を発しながら不気味に燃え続けている。そういう環境で生存できる生物はいない…被害者の家族にとっては悲しいニュースだが、現実的に避けられない決断なのだろう。
市民は新しい「日々の生活」にアジャストメントすべく努力を続けている状態だが、たとえファイナンシャルディストリクトの方向を見ないで生活しても、クライシスから避けて暮らすことはできない。米国社会構造自体が根底からグラグラしている状態だから、これまで就いていたどの仕事だって安泰ではないし、保証もない。社会生活だって娯楽と名の付くほとんどのものは自然発生的に自粛している、またはセキュリティを考えて延期されている状態で息を抜く場所がなかなか見つからない。街は今も深い悲しみと不安に包まれている。テロの恐怖にも怯えて暮らさなければならない。ワールドトレードセンターは鳥籠構造だったために倒壊が早まったとされているが、我々の市民も「籠の鳥」状態、つまり No Escape なのだ。ここにいる人誰もがニューヨークと言うこの巨大な鳥篭からは逃げることはできない…しかし、我々には翼があるという希望も捨ててはいない。もう一度「フリーダム」と言う名の大空に羽ばたけることを夢見て、今は無理して「今まで通り」を続けるしかないのだろう。

9月19日(水)

発生9日目。だいぶ空気が和らいできた感があるが、根底に流れるSadness は相変わらず深い。そんな街中の風景をキャプチャーしながら歩いているだけで、胸がいっぱいになる。午後からはワシントンスクエアパークに設置された追悼の寄せ書きを取材した。世界各国の言語で書かれた様々なメッセージ、大人から子供までありとあらゆる地上の人々の悲痛な思い。中には「テロリストは皆殺しだ!」と言った過激なものもあるが、世界平和を願い「今までと同じような事(戦争/報復/殺戮)をしては何一つ解決しない、愛がもっとも重要」などのメッセージがほとんどだろう。みなバカじゃない、ちゃんとわかってる。3才の男の子はストレートに「ぼくはまた大好きだったワールドトレードセンターが戻ってくることを祈っている」と書き残した。17才のキューバからやってきた学生はテロリストに向けて「我々の愛する人々(含むWTC)をデストロイできたかもしれないが、我々のUnite(団結)は決して壊すことはできない。我々はテロリストが永遠に勝てないものと共に生きている…それは愛だ」と力強く書き残した。フライトアテンダントはテロの犠牲になった仲間の冥福を祈った。細かく集中して読んでいたら涙が出てきて止まらなくなった。
その後トンプソンストリートを南下し、キャナルの手前の路地から見えていたはずのWTCの幻影をキャプチャーした。7月の天気の良い日に妻と散歩した時には、銀色に輝くニクイヤツらが確かにそびえ立っていた…喪失感は計り知れない。さらに南下し、フローズンゾーン(封鎖地帯)に妻の助けもあって入れたので300メートルほどの距離から Debris, Rubble(瓦礫の山)をこの目で確かめることができた。それは実に45メートル(地上7階に相当)もの高さまで積み重なり、もくもくと勢いよく煙を上げ続けている…絶句。レスキューワーカー、赤十字、アーミー、TVクルー、犠牲者の遺族…現場はオーガナイズされているが、そこに漂う空気はどこよりも重苦しく…息苦しく…想像を絶する地獄絵図だった
夜は事件の直接的被害者の1人であるR子ちゃんに直接インタビュー。事件当日WTCのグランドレベルで何があったのかを細かく取材した。そもそも彼女は事件後初めてマンハッタンに出てきたそうで、今は高いビルに囲まれた空間にいるだけで恐怖を感じるとのこと…誰も彼もが恐怖という名の目に見えない敵と戦っているニューヨーク…それはまだ始まったばかりだ。


誰もが「自分にはいったい何ができるだろうか?」
を実践している状態。ニューヨーカーはたくましい。

9月18日(火)

発生8日目。NYSEやNASDAQもアメリカの威信をかけて半ば強引に再開され、思った通り記録的な全面安となった株式市場…いくら予想された展開とは言え、関係者にはショッキングな月曜日だったに違いない。いまだ登り続ける爆心地の噴煙…埃っぽいウォールストリート界隈…まったくをもってタフな状況だ。
街は「Back to Normal days」をスローガンに誰もが頑張って今まで通りの月曜日を過ごした。あるいは過ごそうと努力した。お通夜みたいだった電車内なんかも少しは明るくなった。と言っても、この混乱の影響でトンネル内で長いこと停止したままになると、ピリピリとした空気にあっという間に逆戻り。「また何かあったんじゃないか…」誰もが不安を隠せない。目に見えないテロ組織相手の戦争は既に展開されているが、それは思った通り一般の市民の目に見えないレベルで進行している。パウエル国防長官やアシュクロフト司法長官が発表する戦況はまるでピンとこないことばかりで、想像の域を出ない。だからなおさら恐いのだ…普段は Normal Guy としてごく普通の生活を送っている隣のアラブ人が、ある日突然テロリストに変貌しとんでもない事件を起こす…映画などでしかお目にかかれなかった種の出来事が現実のものとなっている状況は、市民レベルの日常生活にも確実に影を落としている。ちょっと郊外に行けばわかるが、アメリカは地方に行けば行くほど愛国者の多いお国柄。そんなネイバーフッドにそういうテロ分子が潜んでいるのだから、たまったもんじゃない。
アメリカ(と世界の)の見えない敵に対する戦いはまだまだ始まったばかりだが、この時点で既にタフなものであることがわかる。大統領が市民に呼びかけたように今はただひたすら「Perseverance=辛抱、忍耐」の時なのだろう。


視覚的な喪失感もただごとではない

9月17日(月)

ニュースを聞いて慌てて外に飛び出したのが、思い起こせば1週間前のこの時間。爆心地から命からがら逃げ出してきた直接的被害者との遭遇を経て、焦げ臭い空気の中、毎日ニュースを観て、インターネットで数多くの情報を比較検討して、新聞を読んで、写真を撮り回って、友人と話して、いったい何が起こっているのかを五感(含む六感)で感じ、自分なりにストラグルしたピリオドだった。今日からニューヨークは Back to Normal をスローガンに経済活動を本格的に再開。厳戒態勢の中、いまだ煙が立ちのぼる立ち入りが禁じられていた金融・証券エリアを(強引に)一般市民に解放した。
タリバンもウサマもパキスタンの動向も取りあえず置いといて、今の自分の気持ちを総括してみたい。この1週間というもの、個人的には「怒り」「憤り」「復讐心」「愛国心=ニューヨーカーとして」などの感情はほとんど表れず、むしろ「嘆き」と「悲しみ」と「不安」がミックスした複雑でフラジャイルな感情に支配された。それをベースにして自らの新しい居方を暗中模索している状態にあると言える。基本的には Re-Union, Unite We stand という言葉が示すとおり、誰もが一丸となってこの危機を乗り切る流れに属しているが、プライオリティは爆心地にほど近い場所にいた妻の心のケアが何と言っても一番、次が自分が体験したことをグラウンドゼロレベルで少しでも多くの人に伝えることだと思っている。こんな時期にちょうど書物を出版できる立場にいることを「使命」とし、自分なりの取材活動に勤しんでいる=無理にそれに集中している(そうでないとバラバラになりそうだから)状態だ。この先ニューヨークの特にダウンタウンでで生活する以上、現実を見て見ぬ振りすることは不可能。精神的によっぽどキッチリ自分を保っていないとすぐにやられてしまうほど、街角のあらゆる場所に思わず目を背けたくなるような「深い悲しみ」の現実がある。今後も妻と「もっと強くならなきゃね」と励まし合う日々が続いて行くことだろう…そう、今はただひたすら頑張るしかないのだ。


ワシントンスクエアパークからは噴煙が見える

明日から職場に戻る妻なのだった…

9月16日(日)

発生6日目…テロ後初めての週末。空港は部分的ではあるが通常通りの運行を目指し再開…市民としてはテロ以来耳にしていなかった普通旅客機のジェット音が聞こえ始めた訳で、複雑な心境である。学生の憩いの場として特に名高いワシントンスクエアパークではアークのまわりに大きな垂れ幕が用意され、訪れた人々が思い思いの哀悼の意を書き残している。いつもならこのアーク部分をスルーしてワールドトレードセンターがそそり立って見えていたのだが、現在はいまだくすぶり続ける煙が不気味にライトアップされて見えるだけだ。煙をかすめるように飛ぶ旅客機も見える。ある程度時間が経ってヒステリックだった市民の思考回路も徐々に平静を取り戻し「本当に何が起こったのか」を徐々に正しく認識しはじめた感のあるニューヨーク。我々は外国人としてこの地に暮らし今回の事件を体験したわけだが、さすがに毎日繰り返される悲しい出来事の連続に脳が疲弊し、どっぷりと疲れストレスがたまっている状態だ。特にマンハッタンのダウンタウンなんかにいるとそれが顕著で、Change of pace とどうにか頑張って今回の出来事をテンポラリーに避けて暮らそうとしてもなかなか敵わないのが現実だ。外食してもどこもかしこもお通夜のようだ。どの公園に行っても人々が集まり追悼集会を開いている。もちろんショッピングする気分じゃない。映画を観ようと努力するが集中できない。テレビは報道番組しかやってない。なもので、マンハッタンを出ようと思い、昨日はパストレインでニュージャージー側に渡った。なるほど流れている空気が違っうように思えて(我々はアウトサイダーだからだろう…)、何となくリフレッシュ。でも、ホーボーケンから眺めた主を欠いたファイナンシャルディストリクトのランドスケープにはショックを受ける。波止場では多くの人が集まって祈りを捧げていたが、ニュージャージーの川沿いに住む人たちが受けた喪失感も計り知れないことが伺えた。
基本的に困難な状況にも関わらず、復興に向け現実的にバリバリ頑張るアメリカ市民は強いし、そのボランティア精神は尊敬に値する。大統領は国民に忍耐を呼びかけている…街中にはペイトリオッツが溢れ、これから始まる長い闘いに備えているニューヨークの日曜日。


ユニオンスクエアの追悼風景

猫兄弟も祈りを捧げているのだろうか…

9月15日(土)

発生5日目…まさにインディアンサマーの始まりである。被災地はいまだくすぶり続けている…そして、生存者は発見されていない。路上には黄色くなったメイプルリーフやどんぐりなどが落ち始め、秋の到来を確実に予感させる。そして残酷なほどに美しくスカッと晴れた青空にお日様が心地良さそうに浮かんでいる。
金曜日は祈りの日だった。テレビで観た人も多いだろうが、ワシントンのナショナルカテドラルには政府要職者、異なる宗教の代表者などが集まりアメリカのため、世界平和のために祈りを捧げた。グランドレベルでも同様にほとんどの人がチャーチ、パーク、または自宅で祈った。街中に半旗が掲げられている。この祈りはアメリカ国民のPatriot(愛国)精神をより刺激し。そう、残念ながら国を挙げての戦争へ確実に向かっている状態だ。
その後ブッシュ大統領がニューヨークにやってくるということもあって、街は厳戒態勢に入り上空を2機のF16戦闘機がひっきりなしに周回し、雷鳴にも似た轟音が響き渡った…それは市民に安堵感ではなく不安を提供する。なぜならばその轟音は再びニューヨークがテロのターゲットになっていることの証明でもあるからだ。市民による追悼集会は市内のいたる場所で開かれ、特に大学の多いダウンタウンでは次第に大きな集まりへと発展しつつある。その一つであるユニオンスクエアではモニュメントが設置され、それを中心に祈りの輪が広がっていた。国旗、花束、キャンドル、行方不明者のビラ、路上に書かれたピースマーク、賛美歌…ヒッピーのような集団もチラホラ現れ始めている。夜になるとキャンドルに火を灯した市民が集まり、祈りの輪は益々広がり街はより深い悲しみに包まれた。
個人的には戦争反対である。今回の事件の責任の所在を明らかにして、裁きを受けさせることは絶対に必要だが、一般市民を巻き込んだ大規模な戦闘だけは回避して欲しい。全国から5万人の予備役も収集され、来週から本格的に戦闘態勢に突入するそうだ。うち1.5万人がホームランドディフェンスにあたる…これはつまり今後もニューヨークを中心に危険な状態が続いていくことを意味している。


14丁目では祈りの火が絶えることなく灯されている

9月14日(金)

発生4日目…朝から激しい雨が降り続いている。10時半現在行われているジュリアーニ市長のプレスカンファレンスでは、まず最初にメディアの報道姿勢が取り立たされ、あまりにもいい加減で信憑性のない情報を未確認のまま流す姿勢を批判。昨夜など1人のヒステリックに狂った女性が消防士の1人に「WTCの地下2階に10人のポリスオフィサーが閉じ込めてられている」というデマを流したために、救難作業に大きな支障が出た。この模様は速報となって瞬く間に4大ネットで全国に生中継された。朝になってこの女性は逮捕された。その他にも、オフィシャルではないインターネットで間違った情報が流されていることにも言及。また、この時期に市民宅にわざわざ電話をして寄付を募ったり、街頭でボランティア団体を名乗り寄付を集める詐欺が急増。これらの行為を働いた人々も逮捕される。さらに、ポリスや消防を装ってフローズンエリアに入り込もうとするジャーナリストも何人か逮捕された。またこのエリアに入り込んでドロボウを働く者も後をたたない。ウチの目の前でも「ドロボウ」の逮捕劇があった。留守宅を狙ったドミニカンの空き巣のようだったが、窓の外がこんなでは本当に気が滅入るし恐ろしい。
さらに、悪戯の「Bomb threatening」が続き主要建造物で避難勧告が相次いでいる。また激突した飛行機には細菌が積まれていただとか、そういう噂、風説がひっきりなしに流れている。昨日も書いたモスレムコミュニティの襲撃を含め、二次的な犯罪が起こり始めたニューヨーク。でも、これはまだまだ始まりでしかない。昨日は第2段のテロリズムを狙ったアラブ系人種が再開されたばかりの空港で10人逮捕されたし、まだまだ本当に予断を許さない状況だ…まだ何かとんでもないことが起こる気がしてならない。今日の午後にはブッシュ大統領がやってくる…これ以上何もないことを心から祈る。


これは朝夕ではなく、真っ昼間の映像…

9月13日(木)

さて、何から書けばいいものか…発生から48時間以上が経過したニューヨーク。時間が経過するたびに被害の甚大さが浮き彫りになり胸が張り裂ける思いだ。風向きが変わったので、被災地(この場合ファイナンシャルディストリクトを指す)からの煙が北方マンハッタン全体に漂っている。元ワールドトレードセンターから400メートルの位置にあった妻の職場は完全封鎖されているため、ファミリーが避難しているボンドストリートまでお手伝いに出掛けていった。今朝は横浜の叔母から心配していると電話をもらった。14丁目以南では新聞が買えないので(配達ができない)歩いて、何軒かのニューススタンドをまわり、ようやくニューヨークタイムズを手に入れてきた。その間何度も咳き込むほど煙たかった。通りを歩くほとんどの人はマスクをしたり、ハンカチを口元にあてたり、バンダナを巻いたりしている。誰も彼もが押し黙ったまま、賢明に平静を装って「いままでの木曜日」を始めようと努力している。42丁目より南では電車も止まったままだ。ニュースではひっきりなしにオサマ・ビン・ラディンのことや、全米でイスラム教徒が標的になっていることや、少なくとも4,763人の行方不明者いるとジュリアーニ市長が発表したりしている。
画像は昨日のお昼頃にハウストンストリートとブロードウェイあたりから南方を撮影したものだ。完全封鎖されたエリアは通常ならば観光客などで賑やかな SOHO のはずだが完璧にゴーストタウン化している。ビルの隙間からヒョコンと顔を出していた2本の銀色に輝く高層ビルの姿はもちろん見えない。バリケードでは軍が重装備をして警戒にあたっている。果たしてこれがニューヨークなのだろうか…。


見てはいけないものを見てしまった感覚に近い


スタイヴサントには追悼の壁画が描かれている。

9月12日(水)

はじめに、我々のことを心配してくれて、メールをくれたり電話をかけてくれた皆さま、どうもありがとうございます。我々は無事です。
でも街は決して無事ではなく、アメリカ本土がこれほど具体的で視覚的な攻撃を受けたのは後にも先にも初めてなわけで、あらゆるモノゴトがかなり高いレベルで混乱しているのは確か。ファイナンシャルディストリクトからは見たこともないような巨大などす黒い帯がたなびき、街には不安、苛立ち、憤り、興奮、混乱、焦燥、などのあらゆる種類の感情がミックスされて漂っている。上の画像は崩れ落ちる直前のWTCをマンハッタンブリッジの袂あたりから撮影したもの。実はこの直後に最近知り合ったばかりのともだちから「ヒロシさん!」と急に声をかけられてビックリ。彼女は、トレーダーとして働いていたのだが、オフィスがワールドトレードセンター内にあることは知らなかった。とにかく9時の出勤時間に合わせてWTCノースの階下でパンを買ってエレベーターに乗ろうとした時に爆発があって、後はもうとにかくイーストサイドへ向かって闇雲にパニック状態で走って逃げてきて、何が何だかわからない時に知り合いの自分を見つけたとのこと。彼女の会社はWTCノースの79階にあったそうで、同僚と連絡が取れないとしきりに心配していた。時間は10時をちょうど回ったあたり。黒煙は益々勢いを増している…。既にハウストンストリートより南ではサブウェイもバスもストップしていたから、途中水など買いながら10ブロックくらい一緒に歩いて、で、ようやく走っているバスを見つけて気丈な彼女を乗せて、振り向いたらそこにあるはずのWTCが消滅していた。これはいったい何なんだ…。
妻はWTCにほど近い仕事場の窓から2機目の飛行機の衝突、サウスタワーの倒壊、ノースタワーの倒壊などの一部始終を見てかなりショックを受けている様子だった。特にノースタワーが倒壊する時に屋上から人がパラパラと落ちていく様を目撃して言葉を失っていた。
今回のテロリズムですべてのニューヨーカーが受けた肉体的かつ精神的なトラウマは計り知れない。つまり、昨日この頁をアップしている時のニューヨークと今のニューヨークはまったく異なる街になってしまったわけで、平和だったあの日々は簡単には戻らないことを誰もが認識してボランティア活動に勤しんでいる。
一夜明けて我々の住んでいる14丁目以南のエリアは公的には封鎖されている状態なので実は身動きが取れない。角のデリまで新聞を買いに行ったが配達されていないと言う…これはこの街ではよっぽどのことだ。昨日ひっきりなしに聞こえた救急車のサイレンの代わりに、度々通過するF16戦闘機の悲鳴にも似た爆音が上空に響き渡っている。基本的に全ての民間機のフライトは禁止されているので、ジェット音を聞くと「また突っ込んでくるのではないか…」という恐怖感に駆られる。
とにかく今はまだ「誰がやったか」よりも「誰を救うか」の方が遙かに重要な局面のニューヨークカタストロフィー。献血を始めできる限りのことをしようと思っている水曜日。亡くなられた方々の冥福を祈る。


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